彼はいったい何者だ?

国立近代美術館で始まった『アンリ・カルティエ=ブレッソン −知られざる全貌』へ昨日さっそく行ってきました。
ブレッソンの写真のことは以前ここでも書いたことがありますし、また、きっとあちらこちらで情報が溢れていると想像して、今回は、あまり情報が出てこないと予想される映像について耳寄りの話をちょっとだけ書くにとどめましょう。
私の記憶が確かなら8本の映画が上映されています。それらは大きく分けて、ブレッソン自身の回想、ブレッソンの写真撮影の技法、ブレッソン自身の制作映画の3つに分類できるでしょう。


《回想編》
アンリ・カルティエ=ブレッソン −疑問符』(1994年)
「現代フランス最大の写真家のひとり、サラ・ムーンが、20世紀最高の写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンにインタビューしたドキュメンタリーの一編。監督のサラ・ムーンはカンヌ映画祭広告大賞を2度受賞したCMディレクターでもあり、ファッション界で活躍するかたわら、「ミシシッピー・ワン」(90)で映画デビュー。製作監修は彼女の夫でもあるロベール・デルピール、撮影は彼女の全作品を手掛けるエティエンヌ・ベッケル(本作では一部ムーン自身が担当)、編集はロジェ・イクレフ、録音はブルーノ・セズネックがそれぞれ担当。出演はムーン、ブレッソンはじめ、マルティーヌ・フランク、ジャン・レイマリー、ドミニク・エーデ、ヴェラ・フェデールほか。」(goo映画)
「写真を撮ることは 頭と眼と心を 同じ照準線上にあわせること」という名言がブレッソンの口から語られます。また、「最近、カメラはデイバッグの中にいれたまま出かけるようになった。その代わり、手には鉛筆をもっている。」とも語っています。「もう機械を卒業するときだ」と。


《撮影技法編》
『Contacts: Henri Cartier-Bresson』 by Robert Delpire (1994年)
ブレッソンのコンタクトプリントが主役の15分の短編です(会場では7分に短縮)。「決定的瞬間」が一撮一中による偉業ではなかったことが分かります。連続写真の中のひとコマだったということです。手品の種明かしのような映画です。
発表された一枚の写真の前後のコマに何が写っているのかということは、誰しも興味を抱く点でしょう。でもそれはまた他人に知られたくないもののひとつじゃないでしょうか。すでに一線を退き、隠居生活にあるからこそ公開してもらえたのかもしれません。

『Amities』 by Gjon Mili
ブレッソンの華麗な撮影風景のドキュメンタリー映画です。しかも、被写体をロックオンしたまま、人ごみの中を泳ぐようにして、シャッターを切り続けるブレッソンの姿を追っています。カメラさばきの見事さに見とれるばかりです。特に、フィルムの巻上げ操作がすばらしいです。「人間モータードライブ」と命名させていただきましょう。


《制作編》
『生命の勝利』(1937年)
『スペインは生きる』(1938年)
『帰還』(1944−45年)
ブレッソンドキュメンタリー映画を制作していたことを、今回はじめて知りました。テーマは「スペイン内戦」です。このテーマでは、ロバート・キャパが「崩れ落ちる兵士」の傑作をものにしていますが、ブレッソンも取り組んでいたのでした。今回は3本が公開されています。上の『〜疑問符』の中のこれらの映画について語った場面で、「キャパらが写真で撮ったから、私は映像で撮りたかった」とライバル意識もあったようです。


オリジナルプリントやヴィンテージプリントにこだわらなければブレッソンの写真はいたるところで見ることが可能です。しかし、映画はたぶん今ここでしか観れないはずです。写真展に行かれた際には、映画のために1時間半を残しておくことをお勧めします。



梅田 2007/5/14
Leica M3 + Zummicron-M 50mm/F2
Fuji PRESTO400@400